HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



楠はその大きな目から涙を流していた。


ずっと堪えていたのだろう。その目は真っ赤で瞼の淵も赤く染まっていた。


「いいよ。最初から怒ってない。乃亜はあたしを守ろうとしてくれただけ。


あたしはありがとう―――って言いたい」


雅が楠の背中をぽんぽんと優しく撫でると、楠は安心したように目の端に浮かぶ涙の粒を拭った。


「ごめんね」


楠はもう一度謝り、


「いいって。あたし―――何もかも分かってたから。


あたしの方こそ遠ざけようとしてごめん。




今もこれからも変わらず大好きだよ、お姉ちゃん―――」



雅はぎゅっと楠を抱きしめ返し、名残惜しそうに楠の体を離した。


離れたときに気づいた。雅の目にもほんの少し赤みがさしていたことに―――


「う゛……う゛!」


と、隣で一段と大きなむさくるしい泣き声を挙げていたのは梶田だった。


男泣き!??


「良かったな、乃亜ちゃんに鬼頭。これで俺…教室で肩身が狭い思いしなくていいんだな」


「良かったな梶田も」


まこが同情気味に苦笑いを浮かべ、ぽんぽん…梶田の頭を叩いている。


けれど「女の喧嘩は壮絶だから、早く仲直りしてくれて良かったぜ」と僕にこそっ。


切実だな……


そんな感動のシーンを終わらせた後、次に―――まこと梶田………そして雅が数分後出て行く、予定だ。


僕たちが時間差でバラバラに出て行くのは、誰が雅の本当の彼氏であるか悟られないよう


これも一種の作戦だ。


ストーカー犯はさっき僕の元に手紙を送りつけてきた。内容は


『鬼頭雅がこれを知ったらどう思うかな?


彼・女・と・別・れ・ろ』


と書かれていて、そこから読み取れる感情は恐ろしく醜い憎悪だった。


この手紙を送りつけてきたからにはある程度ストーカー犯は雅の彼氏にアタリを付けてるだろうが、確信は無い筈だ。それに次の作戦を遂行した際には僕が雅の恋人である“容疑者”から外される筈だ。