「久米、あんた絵に詳しいの?」あたしは何でもないように問いかけた。
久米はちょっと笑うと、
「そんなに。ただダリの絵はうちでも結構飾ってあるから」と答えた。
「うち?絵が飾ってあるなんてお洒落な家なんだね」と乃亜がにこにこ。
「ああ、うちって言ってもうちの病院。小さいクリニックだけど親父が院長なんだ」
病院に飾ってある―――……?
じゃぁダリの絵のタイトルを知っていたのは―――ホントに偶然……
考えてみれば、久米があの“美術バカ”だとは到底思えない。
顔見知りだったら、こいつから何か言ってくるだろうし、それにこいつは―――
左利きだ。
“美術バカ”は右利き。
しなやかな細い指でキャンバスに描かれるさまをあたしは知っている。
でも久米が美術バカだったら―――
ストーカーは久米じゃない……?
ううん。美術バカ、イコールストーカーかもしれない。
今朝夢に見た―――……
『雅。君はボクのものだ』
そう、あたしは以前にも同じ男に付け狙われていた。
そのストーカー男が―――
何かの事情でこの2~3年程姿を消し、またもあたしの前に現われた。
そう説明できる。
でも、何であたしはこんな大事なこと、今まで忘れていたのだろう。
そして詳しいことは何一つ思い出せない。
あの美術バカの顔も―――
思い出せない。



