HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~




久米の言葉に全員が同じタイミングで息を呑んだ。緊張を帯びた空気が流れ、


誰もが口を閉ざした。


「俺とアツが二人で動いているわけを話すよ」


唯一冷静だった久米が近くの机に腰を据え、余裕のあるまなざしで全員を見渡しながら話し出した。


久米の話はそれほど難しくなく、


彼が怪我を負った二年前の事件で表面上で逮捕され少年院に服役したのは弟の右門 篤史だった。


だが彼は犯人じゃない。当時は雅の存在すら知らなかったし、もちろん久米に怪我を負わせたこともない。


楠 明良が言う通り大人しく目立たない生徒ではあった。


兄が傷害事件を起こし―――だが、土壇場にきて本妻の長男が可愛くなったのか、跡取り候補として引き取った息子を身代わりに仕立てることにしたのは議員。


もちろんただで、と言う訳にはいかなかった。彼には有能な弁護士もついたし久米の父親にはいくらか謝罪金を支払っている。


「悪いようにはしない」とでも言ったのだろう、言い訳の常套句だが当時十八歳だった彼に選択の余地はなかったのだろう。


もちろんそこで黙っていられる久米ではない。捕まったのは本当の犯人じゃないと知れば、久米ではなくても誰だって真実を知りたくなる。


その後久米は独自で真犯人を追っていた。


ホームページを立ち上げ、そこで右門 篤史と接触をして、また狙われるかもしれない可能性を危惧し雅の心配をしていた。


「ストーカーの犯行が再びはじまったのをいち早くアツが知った。それで俺のところに連絡がきて、


俺が転校してきた、ってわけだよ」


最後に久米が付け加えて、一同は「なるほど」と言った具合に頷いた。


「てかひでぇな右門議員のヤツ!てめぇの息子の不始末ぐらいつけされろってんだ」


梶田が怒鳴り、


「金持ちの考えにはヘドが出るな」


と楠 明良も怒りの矛先を議員に変えたようだ。