HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~





演技―――……


確かあのときは……被服室に居た楠が久米に…いや、僕も詳しくは分からないが、あのときの楠の取り乱しようから何かあったのは明白だった。


僕もまこも梶田もその場に居合わせていた。


「二人は恋人関係でもないし、被服室で恋バナとかしてたわけじゃなく、


ストーカー犯の動向について話してた。


でもそこにタイミング悪くあたしが乃亜を探している、と言うことに気付いた。


あたしたちはてっきり久米が乃亜を連れ去って何かしでかしたんじゃないか、って思い込んでたから。



久米と乃亜、二人は焦ったはずだ。一見して共通点がない二人が二人きりで被服室に居るのはおかしいことだからね。だから乃亜はあたしにわざと居場所を報せるメールをして」


「そう、そこで急遽俺が楠さんにキスを迫ると言う芝居をして、凌いだわけだ」


「し、芝居だぁ!」


梶田が目を丸め


「どういうことだ!乃亜!!」と楠 明良は目を吊り上げる。


僕だって正直驚いているところだが、意外にも、まこは冷静で


「まぁ黙って聞いてろって。お前ら血の気多すぎ」とまた軽く手を挙げ宥め


久米は軽く肩をすくめると再び話し出した。


「楠さんは女優になれるよ。予想以上にうまくやってくれて





君は予想以上に―――俺に敵意を抱いた」






「あんたの目的は話し合いを凌ぐだけじゃなく、あたしの目をあんたに向けること。


ストーカーがあんたであると疑わせること。


そうすれば探ろうとするあたしを自然に目に届く場所に居させられることができるからね」




「そんな意味が―――」


梶田は目をまばたかせ、僕も正直ここまで考えが及ばなかった。


まこも同様だろう。虚を突かれたように目を細めている。


「好き、になってもらう、俺の方を見てもらうってのは…どうあっても利用できなさそうだったから。


それだったらいっそ憎んでもらおうかと、


それが一番手っ取り早い」



久米はさらりと言ったが、その裏でどれほどの葛藤とどれほどの決断がいったのか計り知れない。


僕は彼のスケッチブックを目にしている。あの白い紙に描かれたただ一人の人物画は



愛に溢れていた。



彼女の姿を描くことができない傷を負ったのに、事実を受け入れ



雅を守ろうとした。