「久米は転校してきたけれど、あたしとはほとんど接点がなかった。
同じクラスだけど梶や乃亜ほど親しくないし、
迂闊に近づいたらストーカー犯を刺激するかもしれないしね」
雅の説明を聞きながら、僕はちらりと楠を見た。
彼女は話が始まって以来ただ黙ってうな垂れている。
「そこで協力者を得ることを考えた。
久米は思ったはずだよ―――
当時あたしの同じ中学に在籍していて、今もあたしと同じクラスメイト。
これ以上にない人材を見つけた」
「同じ中学で……今、雅のクラスメイトって……」
楠 明良が息を呑み、同じように梶田も目を開いて二人とも楠を見据えると
「ごめん明良。騙すつもりはなかったの」と楠は弱々しくつぶやいた。
「そゆうこと。あたしが怪しいと思っていた久米の噂話は“カノジョ”が居るってことだった。
その“カノジョ”こそが乃亜。
ううん、カノジョと勘違いされた乃亜だった」
「どうして……どうしてだよ、乃亜!なんで俺に言ってくれなかったんだよ!」
今度は楠 明良が楠に勢い込み、
「ちょっと待って!だって久米は乃亜ちゃんに迫ってただろ?
鬼頭を手に入れるため、乃亜ちゃんを利用したんじゃないのか!?
乃亜ちゃんが久米の協力者だったら仲違いしたってわけ??」
梶田が混乱したように頭を押さえ、
「乃亜に迫った!?お前っ!!何したんだ!」
今度こそ楠 明良がはっきりと怒りを露にし、顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
「明良兄、待って!」と言う雅の制止も振り切り、久米の胸倉を掴む。
今にも殴りかかりそうな勢いを止めたのは、まこだった。
「久米の話も聞いてやれよ。それにお前があれこれ言える立場かっての」
まこが眉間に皺を寄せ、楠 明良を引き剥がすと彼は言われた意味が理解できたのか、「ちっ」と小さく舌打ちして、まこの手を乱暴に振り払った。
「……先生」
楠が大きな目をうるませて、まこを見上げ
「久米が乃亜に何かをしたわけでもなく、乃亜が久米に心変わりをしたわけでもない。
二人はただ“演技”をしただけだよ。
あたしたちの前でね」
雅があとを引き継いだ。



