下校時間だけあって、下駄箱はさまざまな生徒たちで溢れ返っている。
A組の生徒たちも例外ではなく、
文化祭実行委員の女王的堤内も、気弱な手下のような根岸も僕の横を素通りしていった。
「あ、先生いた~」
僕のクラスの岩田が僕を見つけると明るい笑顔でこちらに走ってきた。
岩田と仲が良い女子も数名一緒にいる。
「今から買出し行きたいんだけど、先生車出してくれない?荷物重そうだし」
僕は軽く肩をすくめると
「男子に手伝ってもらいなさい。そうゆうことは実行委員の規律に違反する」
僕がちょっと咎めると
「はぁい、やっぱダメかぁ」
と残念そう。
「先生真面目?和田先生は車出してくれたって言ってたよ」
違う女子が言って、僕がすぐ隣の和田先生を見ると、和田先生は慌てて視線をそらした。
「悪いことだとは思ってますけど、少しでも生徒の力になりたくて」
「悪いことですね。でも黙ってますよ」
お互い様――――と言いたかったが、僕はその言葉を飲み込んだ。
僕と和田先生の抱えている秘密は比重がまるで違う。
「とにかく君たちは自分たちで行きなさい」
勝たしてやりたい―――そう思っているが、それは生徒の力でやり抜けばこそだ。
「はーい、てか森本さん知らない?買出し係りなのにいなくてさ」
森本……
「さぁ、知らない」
僕はまた彼女たちに小さな嘘をついた。



