HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~




この高校には視聴覚室が二つある。


第一視聴覚室は大学の講堂のように広く作ってあるが、第二は二分の一程度の規模だ。


だが映画鑑賞やちょっとしたミーティングができるよう、部屋は防音効果が施され


遮光カーテンを引けば外から見られることもない。


ただ、場所は密談を交わすには不適切なところにあり、全学年がメインで使用する中央階段の横に位置している。


少し歩けば生徒の下駄箱もあるし、自販機などが並んでいる休憩スペースも近くだ。


案の定


「先生、さようなら~」


と、先ほどから生徒が視聴覚室の前をひっきりなしに行ったりきたりしている。


「さようなら…」


言いかけて


「不審者がうろついているかもしれないから、まっすぐ帰るように」


一応注意すると


「はぁい」と間延びした返事が返ってくる。


「あれ、神代先生。視聴覚室ですか?」


職員室に向かう和田先生とも鉢合わせた。


「ええ。文化祭の打ち合わせで。僕は生徒の監視役ですよ」


「熱心ですね。どうです?あれから…


特に問題はありませんか?」


ちょっと声を潜めて聞かれて、僕は曖昧に苦笑い。


「ええ、ご心配おかけして…大丈夫です、ありがとうございます」


視聴覚室の前でそんな会話をかわしていると、鞄を肩に掛けた森本が階段から歩いてきた。


帰るところなのだろうか。


僕を見ると気まずそうに顔を伏せ、足早に去っていった。