森本が少し驚いたように目を開き、掴まれた腕と僕の顔で視線をせわしなく動かしている。
「このピアス……どうしたんだ?」
思った以上に低い声で詰問口調になってしまった。
ここではじめて森本は戸惑いの表情を浮かべ
「どうしたって……親に買ってもらいました」
とおずおずと答える。
「お母さんが君に?」
確認する意味でもう一度聞くと
「いえ、父が。ミキモトで……ホワイトデーのお返しです」
森本はまたもそう答え
嘘だ。
そのピアスは結ちゃんのピアスだ。彼女が自分で買って森本が持っていった、と言っていた。
「何故そんなことを?」
森本がいぶかしむように聞いてきて、僕は更なる確証を得るために彼女のもう片方の髪をそっと掻き揚げると、森本はまたも目を開き
だが彼女のもう片方の耳にはパールのピアスは
なかった。
やはり―――
「森本、もう一つのピアスはどうしたんだ?」
僕が聞くと
「なくしました。……どうしてそんなこと聞くんですか?」
とちょっと気味悪そうに顎を引き、一歩後ずさった。
僕は慌てて彼女の顔から両手を離し
「いや…僕のツレも同じようなピアスを持っていたから。
同じようにミキモトで買ったと言っていたな」
今思い出したようにさらりと言うと、森本の表情がわずかに引きつった。
「で?相談したいってことは?」
僕が話題を変えると
「いえ、今はもういいです」
森本は慌てて頭を下げ、パタパタと上履きを鳴らして走り去っていってしまった。



