以前は超が付くほど現実主義者のあたし。


目に見えないものは信じないし、信じたくなかった。


こと“恋”や“愛”“運命”なんて、大好きなあゆの歌にも何度も登場し、恋愛小説を読めばその言葉を素通りできないほど横行してるってのに


あたしにはその意味が分からなかったし、知りたいとも思わなかった。


乃亜が好きなゲーテの詩にも何度も登場した。


同級生たちが色めきたってはしゃいでいるのを横目で見て、冷めた目で一人居た。


でも



あたしは今その言葉の本当の意味がようやく理解できた。


「水月…」


あたしは我知らず彼の名前を呼んでいた。



『ん?』


彼が穏やかに聞いてくる。


その優しい声音も好き。


「水月」


あたしはもう一度彼の名前を呼んだ。



とりとめのない…実体のない意味を持つ名前を彼は嫌っていたけれど


あたしにとっては世界で一番美しい名前。




気持ちが溢れる。



止められない。







「水月、好き」