「鬼頭――――!!」
ふいに声を掛けられ、後ろに倒れそうになっているあたしを支えてくれたのは
保健医だった。
力強く肩を支えられ、保健医のかぎ慣れた香水の香りを間近で感じる。
「………は…」
あたしは保健医のシャツをぎゅっと握って彼を見上げた。
ぼんやりとかすむ視界の中で保健医が心配そうにあたしを覗き込んでいる。
「しっかりしろ。ゆっくり息を吸って、吐いて…」
保健医があたしの背中を撫で、あたしは言われた通りに胸を上下させた。
それを認識すると不思議と体が楽になった。
どこかに遠ざかっていたあたしの意識が戻り、呼吸の仕方を思い出したかのように口で慌てて息を吸い込む。
止まっていた呼吸が急にできるようになってあたしは少しだけ咳き込んだ。
「鬼頭さん…」
久米が心配そうに覗き込んできて、あたしは涙目のままゆっくりと久米を見上げた。
「…ごめん。…もぉ、大丈夫…」
ちょっと手を挙げて保健医につかまると
「鬼頭が迷惑掛けて悪かったな、久米。
俺がついてるから大丈夫だ」
保健医は早口に説明して
「ほら、歩けるか?」とあたしを家の方へと促す。
あたしは保健医に導かれるままよろよろと歩き出し、それでも久米が気になってわずかに振り返った。
久米は保健医やあたしを引き止めることなく、ただ黙って心配そうにあたしを見つめている。
「……ごめん久米…」
小さく謝ると久米はぎこちなく微苦笑。
「………ごめん……」
もう一度謝ると
「鬼頭さんの口からもう“ごめん”て聞きたくない。
君の気持ちは分かってるし、理解してるつもり。
だから
謝らないで」
そう言った久米の顔は寂しそうで、それだけ言うと久米は最後まで見届けることなくあたしに背を向けくるりと踵を返した。



