あたしの手を掴んだまま、久米は自分の胸元へそっと導く。
「ここがさ……」
そう示したのはちょうど心臓の辺り。
掌に久米の僅かな心臓音が伝わってくる。
「ここが、変な感じ……
二年前の鬼頭さんと中身はあんまり変らないのに、外見は成長して
……きれいになった」
“きれい”と単語を出したとき、久米の鼓動がちょっとだけ早まった。
それに呼応してか、あたしの心臓も一瞬だけ強く打つ。
「そうやって君はどんどん……俺の知らない“女”になっていく。
君の成長を見るのは楽しいことだけど歯がゆい感じもするし、その反面きれいになっていく鬼頭さんを見てるとどうしようもなくドキドキする。
焦りと気恥ずかしさで、変になっていきそうなんだ」
あたしは久米の心臓に手を置いたまま僅かに俯いた。
水月以外……こんな風に優しく愛を囁いてくれたのははじめてだ。
梶も愛を伝えてくれたけど、梶のは情熱的だった。
ただストレートに想いを伝えてくれた。
それとは違う……静かで…とても穏やかだ。
あたしはきっと―――
久米の手を取れば、久米と付き合えば
きっと、幸せになれる。
こいつは大事にしてくれる。
堂々と手を繋いで街中を歩ける。
周りの目をこそこそ気にしたりしなくてもいい。小さなマンションと言うお城に閉じこもって逢瀬を重ねることもない。
だけど
あたしの王子さまはあのお城で待ってるし、あたしは優しくて大人なのに無邪気な…どこか抜けてる彼のことが好きなの。
水月
その人しか要らないの。
ごめん久米―――



