「母親は裁判で闘うことを望んでいたが、何せ向こうの弁護士が優秀でね。
アツは罪も認めてるし、当時は未成年者だった。
しかも俺は右手に怪我を負っただけだ。
俺たちに勝ち目はなかった。
母親親族は法外な示談金に目がくらんだと父親を非難したけれど、俺は父親を責める気はない。
それが最善の策だと
思ったからだ。
何より君があの事件のことを忘れてくれたから
裁判を長引かせて君の記憶を掘り起こすのが
俺は怖かった」
だから
逃げるようにあんたは転校して
何もかも沈黙することで
あたしを守ってくれたんだね―――
あたしは久米の手にそっと自分の手を重ねた。
“俺が鬼頭さんを守る”
いつかそう言ってくれたね。
あんたは
約束を守ってくれた。
こんなあたしのために―――



