結ちゃんが頼んだレモンティーが運ばれてきて、彼女は紅茶を飲む前にバッグの中をごそごそとまさぐり、小さな折りたたみ式の黒い鏡を取り出した。
「この時期になるとね、目が乾くの。乾燥してるのかな。
コンタクト外れそう」
結ちゃんは鏡を開いて目の様子をしきりに気にしている。
マスカラとかついてるし、女の子は目を擦るわけにもいかないみたいだ。
そんなことを考えていたが、僕はその開かれた鏡の端を視界に入れて、
目を開いた。
黒い鏡の隅に小さな薔薇のシールが貼ってある。
僕のところに届いたあのストーカーからの手紙、まこのところに届いたトランプ。
それに貼られていたものと同様だ。
「ちょっと貸して」
鏡を見てまばたきを繰り返していた結ちゃんの手から鏡を奪うと、結ちゃんは思い切り不審そうに眉をしかめた。
「先生、今日どうしちゃったの?さっきから…」
結ちゃんの質問には答えずに、僕はその鏡を凝視。
近くで見ると、その造りがより詳細に分かった。
色と言い大きさと言い、質感と言い―――
あの手紙に張られたものと一緒だ。間違いない。
穴が開くほど見たんだ。
「…いや、ごめん。このシール。薔薇の。
どこで買ったの?それとももらった?」
僕が目を開いたまま聞くと、
「もらった…わけじゃない。
妹の…エミナの机の上に乗ってたから、勝手に取ったの。黒一色だと味気ないし」
森本の―――……



