□Chairs.16



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「―――事情は詳しくは言えない。けど絶対に一人になるなよ。


お前はお義父さんとお義母さんと居ろ。


……え?―――ああ、うん。電話する」





まこがケータイの通話を切って、それを乱暴にテーブルの上に滑らせた。


今一緒に住んでいる千夏さんの身の安全を心配して、偶然にも実家へ帰っている千夏さんにその場で留まるよう指示したようだ。


まこは額に手を当て深くため息をついて椅子に腰を掛けた。


「まこ。


もうまこはこの件から手を引いてくれ。


千夏さんはお腹に赤ちゃんだっているし、結婚式を控えてるし」


僕がまこを見ると、


「そうだよ……あんたヤバいんじゃねぇの」


と梶田もおろおろと立ち上がる。


「俺が手を引いたって事態は変わんねぇよ。


ストーカー野郎が鬼頭を手に入れるまではな」


まこは冷静に言って僕たちを眺める。


それは分かってるけど…


「鬼頭を売れってのか?俺ぁそんなことしたくないね。


そんなんで千夏と結婚しても嬉しくもなんともない」


「それはそうだけど…千夏さんに何かあったら…」


「そうなる前にストーカー犯をとっ捕まえればいいだけだろ」


「そんな簡単な問題じゃねぇだろ!」


梶田が少し大声を挙げてまこに勢い込み、僕は梶田を止めるつもりで「梶田、落ち着きなさい」彼の両肩を押さえた。





「じゃぁお前は鬼頭と千夏、俺にどっちか選べって言うんかよ!!


お前だったら鬼頭と楠、どっちか選べるのかよ!」





まこが怒鳴り返して梶田の胸ぐらを掴む。


胸ぐらを掴まれた梶田は驚きに目を開いて、ただまこをじっと凝視している。


「選べねぇだろ!え?」


まこは確認するような意味で一言怒鳴ると、梶田の襟から乱暴に手を離して突き放した。