久米の唇はあたしの唇に触れることなく、久米はあたしの顔のすぐ横で首を折って項垂れた。


あたしは


久米が強引に女を襲うヤツじゃないって確信があった。


だって久米は




美術バカだから。



あの優しくてあったかい






とーやだから。




あたしは覆いかぶさったままの久米をぎゅっと抱きしめた。


それはあたしの知ってる美術バカの感触ではない気がした。だって抱きしめたことないし。


でも温もりは



変わってないよ。





「ごめんね、とーや。


あたし一人で大人になっちゃって。


一緒に大きくなりたいって言ったのに





ごめんね」





「………なんで…」


久米は震える声で小さく呟いた。


久米が僅かに体を起こし、あたしの顔を真正面から覗いてくる。






「何で



こんなに好きなんだろう。




何で。



君は俺のこと忘れてくれなかったんだろう」





さっきまで平然とした顔でシラを切ろうとしていたのに、


塞き止めていた何かが久米の中で切れたのか、久米は涙を浮かべていた。


ポツン…


その涙の粒は久米の頬を伝い流れるわけではなく、すぐ真下のあたしの頬に落ちてきた。



「忘れられないよ。


忘れてもきっとあたしは―――想い出す。





あんたのことを。





とーや




約束を守れなくてごめんなさい」






久米の肩を抱きしめてもう一度囁くと、久米は……ううん


とーやは肩を震わせて、涙を流した。







一緒に大きくなれなくて





ごめんね。





とーや。





あんたから才能を奪って





ごめんね。