いいの?久米。
今のあたしを一人で部屋に残して。
何かあたしが見つけ出すかもよ?それとも探しても何もないって自信があるから?
ううん、たぶん違うな―――
久米が出て行ってあたしは久米のベッドに座った。
「変わってないな、
とーや」
変なの。
あたしの知ってる久米はもう居なくて、きっと久米の中に存在する想い出のあたしももう居なくて
あのときのあたしたちはどこにも存在しないって言うのに。
でもこの感覚―――どこか懐かしい。
なんかぎこちないのに、甘ったるくて、それがくすぐったくて、
中学二年生に、戻った気がした。
あたしはベッドに体を横たえてみた。
懐かしい……
とーやの香り。
石鹸と柔軟剤の香り…
でも木炭と油絵具独特のあの匂いが香ってこなくて、何だか物足りない感じ。
その考えを逸らすために、あたしは体を起こしてデスクの上に視線を移動させた。
パソコンデスクの上にはA4サイズの紙が一枚と鉛筆が転がっている。
立ち上がってその紙を見ると、
紙の上には人物像か何かが描かれていた。
女の人―――と言うのは分かる。
水……海…か池だろうか…その中に仰向けに浮かび上がる女の人。長い髪が水面にゆらゆら揺れて
白いワンピースの胸の上で手を組んでいる。緩やかなカーブを描いた髪のところどころに花が飾ってあって細部まできれいに描かれているのに
顔の中身だけは描かれていない。
気味の悪い絵だったけれど―――まだ完成されてない絵だったら頷ける。
白黒の絵でそっけない印象もあったけれど
その才能は
まったく色あせていない。



