HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~




久米の部屋は二階にあった。


廊下の一番突き当たり。


「どうぞ」


促されて


「“散かってるけど?”」と聞くと、


「文字通り、散かってる」と久米は苦笑い。


散かってる、とは言ったものの久米の部屋は割りときれいだった。六畳ほどの部屋にパソコンデスクとテレビ、ベッドがあるだけのシンプルな部屋だけど。


あたしは水月の部屋にはしょっちゅう入ってるし、保健医の部屋にもいっとき入り浸っていた。


明良兄の部屋は小さい頃から見慣れてるし、梶の部屋にも一度だけお邪魔したことがある。


男の部屋を見慣れてる筈なのに、そこが男の部屋と言う感じがしないのは


大抵男が好きは車やスポーツの雑誌や飾り物がないせいだろうか。


本棚にも雑誌類は見当たらず、小さな文庫本が無造作に納まってるだけ。


何ていうか……生活感のない部屋。


でも、


落ち着いたブラウンのベッドカバーが敷いてあるベッドだけは布団が僅かにめくりあがり、枕の位置がずれている。


セミダブルのサイズ…背の高い久米でも脚を伸ばして寝れる。


「あー…何か…飲む?」


あたしの視線に気付いたのか、久米はちょっと話題を逸らそうと聞いてきた。


「何があるの?」


「コーヒー、カフェオレ……あとお茶…緑茶だけど」


「じゃぁカフェオレ」


あたしはベッドから視線を外さずにそっけなく答えると、久米は軽く咳ばらいして


「ホット?アイス?」とまたも聞いてくる。







「ホット。あったまりたいの」






意味深に笑いかけると久米は頭の後ろに手をやって俯き、


「じゃ……ホットカフェオレ作ってくる」


と素直に部屋を出て行った。