通されたのはリビング。


それほど広くはなかったけれど、小綺麗にしてある。


白い壁に白いソファ。ソファの上には茶色とオレンジの縞模様のクッションと、差し色なのか鮮やかなオレンジ色のブランケットが無造作に置いてある。


黒猫のオランピアはそのオレンジ色のブランケットの上に座っていたけれど、あたしを視界に入れるとまたもぴょんと跳びあがり、どこかへ隠れてしまった。


「ごめん、人見知りなんだ」


「いいよ、ネコにまで気ぃ遣われてもね」


あたしのジョークに久米は笑うことなく、ブランケットを手に取りそれを畳みながら、


「父さん…また出しっぱなしにして。ランが引っ掛けたらどうするのさ」


呆れたようにガラステーブルに乗ったグラスを手に取る。


ガラスの板がはめ込まれた黒いチェストの扉も僅かに開いていて、久米は通り過ぎる際にそれも閉めていった。


ちらり、と中を覗くとあたしのお父さんがコレクションしているのと似たようなタイプのウィスキーやブランデーがきっちりと並べられていた。


「お父さん、お酒好きなの?」


「…それほど。それは患者さんにもらったものなんだ。


良かったらどうぞ。神代先生のお土産にしたら?


好きでしょう、お酒」


久米はさりげなくそう言ってリビングから続くキッチンに向かって行った。


水道の蛇口を捻ると、別のグラスに水を入れて一飲み。


「さすがだね、良く調べてんね」


あたしが皮肉を込めて笑うと、久米は水を飲む行動を止めてあたしを見てきた。


「でも調べ足りないんじゃない?


水月は洋酒より和酒……日本酒とか焼酎が好きなの。


覚えておいて。ほかにも聞きたいことは?


タバコのメーカーも言えるし、どんな音楽が好きかも全部知ってるよ」


あたしが言ってやると、久米はグラスを置いて軽く両手を挙げた。


「俺は神代先生のストーカーじゃない。


別に知りたくないし、知っても得しないよ」







「知りたいのは、あたしのこと―――?」






挑発的に微笑を浮かべて腕を組むと、久米はまたもグラスを持ち中にある水を一気飲みした。



「俺の部屋、行きたいんだろ?


案内するよ」