「散かってるけど…」


久米はそう言って狭い廊下を進んでいく。


「何それ。男が女を部屋に呼ぶ常套句ジャン」


久米の後をついて行きながらそう答えると、久米はまたも僅かに振り返り顔を歪めてあたしを見下ろしてきた。


何か言いたそうに口を開きかけたけど、でも久米の口から何かを語られることはなかった。


リビングの扉を開けたときだった。


黒い何かの生き物がさっと飛び出てきて、久米の足に纏わり付く。


「にゃ~」


その生き物…黒いネコは久米の帰りを待ちわびていたように甘えた声を出して久米の脚にすりよっている。


「…ネコ…?」


可愛い…


あたしがそのネコに近づくと、ネコは警戒したように久米の影に隠れる。


「うちの飼い猫。


オランピアって言うんだ」






オランピア―――……






あたしが目を細めてそのネコを見ると、ネコは益々警戒したようにさっと久米の傍を離れてリビングのどこかへ消えていった。


「変な名前」


率直な感想を言うと


「鬼頭さんて正直だよね」と久米は苦笑。


「まぁ付けた俺としても呼びにくいから普段は間を取って“ラン”って呼んでる」


「ラン?それなら可愛いんじゃない?女の子らしいし」


「あれ、俺女の子って言ったっけ?」


「ううん、なんとなく女の子っぽい気がした」


「何それ」


久米は笑ったけれど、





あたしはこの一瞬で





久米の正体が




見破れたよ。




ねぇ





とーや。