久米だったら―――…きっとこのパンジーでさえも微細に映し出し、その白い画用紙に命を吹き込むことができるのだろうか。
画用紙に広がる白と黒。巧みに光と影を操り、
色を加えると
それはまるで目の前に広がる風景を切り取ったかのように―――鮮やかに現れる。
それは色あせることなく、老いることなく永遠に、作品として残るのだ。
そう考えると僕は彼が絵を描けなくなった理由に、
同情を覚える。
「武田先生、先生の専攻は油絵で?」
僕はさりげなく聞いてみた。
「いいえ、日本画ですよ。先生は西洋画に興味が?」
聞かれて僕は手を振った。
「いえ、知人が油絵をやってるものですから」
「そうですか。油絵も味があっていい」
と武田先生はおおらかに笑い、生徒のデッサンを楽しそうに眺めている。
僕は今まで武田先生とそれほど接点があるわけでもないし、あまり話したことがなかった。
「僕、知らなかったんですが油絵って絵具と油を混ぜて…溶かして使うんですね」
僕の問いかけに武田先生がちょっと驚いたように目をぱちぱち。
だけどすぐに楽しそうに説明をしだした。
「ええ。顔料と呼ばれる染料を揮発性油や乾性油などで溶かして作るんです。
水彩の場合は絵具と水ですが、油だと繰り返し色が重ねられるのでイメージに合わなかったり修正したいとき、いくらでも修正できるのが魅力ですね。
その反対に日本画は粒子径が大きく…胡粉てご存知ですか?」
聞かれて、「いいえ」と僕は頭を振った。
「貝がらから作る顔料のことですよ。それを膠と水で溶かして薄い色から重ねていくのが方法です」
武田先生は説明をしてくれて、
「そうだ。興味がおありでしたらどうぞ。
画家仲間から美術館のチケットもらったんですけど、私はもう二回も行きましたので」
と武田先生は机の引き出しから美術館のチケットを取り出して、僕に手渡してくれた。
正直それほど興味がなかったし、今は一緒に行くツレもいない。
雅と仲が良かったらもしかしたら行けたかもしれないが。
「ありがとうございます」
せっかく気を良くして色々教えてくれたし、感謝の気持ちで僕は一応受け取った。
「あの…でも僕…あまり詳しくないんです。だからあまり良い感想を述べられないかも」
と一応念を押しておくと、
「わかってますよ」と武田先生はおおらかに笑う。
美術の先生だけあって、のんびりと穏やかで優しい先生だ。
「あの…先生」
僕はついでのように口を開いた。



