HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~





そう思うも、


ドキドキ!


心臓が大きな音を立てて早いリズムを打ち鳴らす。


こんな……人を脅すようなことしたの始めてだよ。


動揺が顔に出なくて良かった…とひたすら僕はドキドキ。


心臓の辺りを手で押さえて、がくりとテーブルに手を突いた。


楠が言った通り…僕はお人好し……いや、小心者なんだな。


僕の教え子である楠なんてほとんど言って始終ペースを崩さなかったっていうのに。


僕はたったの数分だけでも、こんなにも緊張して手には汗が浮かんでいるし喉はカラカラに干上がっている。


何か水分を欲して自販機に向かおうとしたのに、何故かタバコを手にして職員室に向かっていた。


日ごろの習慣って怖い。


職員室に向かうと、ほとんどの先生は授業か準備室に篭っていて、その部屋はがらんと静かだった。


職員室の隅の、自分の机で何かを眺めていた美術の……武田教諭が居ることに気付いて僕は自然にそちらに足を向けた。


武田先生は御歳六十二…定年を過ぎた男性の先生で、今は非常勤講師として出勤している。


定年前は常勤していたが、今は週に二日程の出勤。


美術の先生はほかに若い美大上がりの二人。そちらも外部講師で非常勤だ。


三人とも正規の教師扱いではなく、アルバイト的な扱いである。


美術は高校三年間の中でも選択授業にしか入っておらず、それほど成績に影響しないと言うから先生も生徒ものんびりしている。


「…武田先生…お疲れ様です。今日は授業ですか?」


僕が声を掛けると、武田先生は丸いメガネを持ち上げておっとりと微笑む。


「ええ、終わったところですよ。生徒たちの課題をチェックしているところです」


そう言って武田先生は手にしていた画用紙のスケッチを見せてくれた。


鉛筆で描かれた風景画は乱雑でお世辞にも上手いとは言えなかったが、


「決して上手ではないけれど、丁寧に描かれてますね。あじがあっていい」


と武田先生はおっとりと笑い、またもメガネを持ち上げる。


「ほら、植え込みの…パンジーもちゃんと描かれている。良く観察している証拠ですよ」


武田先生が指差してくれた場所は、確かに見ようによっちゃ花のように見えるものが描かれていて、僕も思わず微笑んだ。