楠は唇を引き結んだ。大きな目だけを上げて僕をまっすぐに見据えてくる。
僕の考えを読もうとして、瞳の奥まで覗こうと意思が感じられるが、それだけで僕が何を考えているのかは分からなかったみたいだ。
「君も計算してみるんだな。
雅を取るか、久米を取るか」
追い討ちのように掛けた言葉に、楠の眉がぴくりと動いた。
開かれた目は僕から逸らされたが、でも逡巡するように視線の先があっちへいったりこっちへいったりと忙しなく泳ぐ。
楠が計算しているのは分かった。
だが、その計算の答えを割り出す前に、無情にも次の授業の鐘が時間切れを伝えた。
「……すみません、授業はじまっちゃうから……」
楠は声を上ずらせて僕を見上げてきた。
時間切れの鐘の音に少しほっとしたような、それともこのタイミングを呪う様な
複雑な表情を浮かべて何とか立ち上がる。
今度は僕もそれを阻まなかった。
「どうぞ」と言う意味で準備室の扉へ促す。
「楠、今日一日時間を君にあげるよ。
今日の帰りまでにその答えが教えてくれないか」
出て行こうとする楠に向かって僕が言うと、楠は僅かに会釈をして準備室から出て行った。
楠は―――久米に相談するかもしれない。
久米は……何て言うだろう。
『そんなの先生のハッタリだ。気にするな』
―――だろうか。
でも楠は迷っているようだった。
僕を信じるか、久米を信じるか―――
僕が一日と言う期限をつけたのは、なるべく早い段階でその答えを知りたかったから。
時間が経てば経つほど、彼らは何かしら回避してくるのが分かりきっていたから。
そうはさせない。



