HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~




久米―――だからあの場…雅が事故に遭ったあとに警察署に居たわけ……か。


右門 篤史…



右門―――……



二年前の障害事件に関与していて、議院の息子の……


何故、右門が―――





『あと一歩』と楠が言ったからには、雅はある程度その作戦を成功させていたに違いない。


何も相談なしで―――




そんな危険なことをしていたとは。





「どうしてそんな危険なことをしたんだ」


僕は額に手をやり、意味もなくその場をうろうろと行ったり来たり。




「雅は先生を守りたかったから。


ううん、先生だけじゃない。


あたしや梶くん、明良や林先生―――


みんなを守りたかったから


一人で挑んでいったんだよ。


それだけは分かってあげて」




楠はさっきまでの挑発的な態度から一転、声を穏やかにさせて僕を見てきた。


僅かに眉の端が下がり、その視線は同情的とも言える。


僕は歩くのを止めて楠を見下ろした。


額に置いていた手を退けて、まっすぐに楠を見下ろす。


急に動きを止めた僕を見て楠が怪訝そうに眉を潜めた。






「楠、取り引きをしないか」





僕が一言切り出すと、楠は大きな目をさらに大きく開いた。


「何を言ってるんですか…」


楠が立ち上がろうとしたが、僕はそれを阻むようにテーブルに手をついて楠を逃がさなかった。


「いいか?僕は君がまだ掴んでいない久米の秘密を握っている」


楠の反応をより近くで感じるため、僕は再び楠に僅かに顔を近づけた。


「秘密―――……?」


楠は困惑したように眉間に皺を寄せ、僕を見上げてきたが


「どんな秘密なんですか…?あたし、久米くんのことなら大抵のことは知っています。


そんなハッタリが通用するとでも?


雅に感化されたんですか?先生がそんなこと言い出すなんて


それに先生は他人の秘密をぺらぺら喋る人じゃないってこと分かってますし」


と、すぐに切り返してくる。


たとえ僕が秘密を握っていたとしても、楠は僕が安易にそれを喋る人間じゃないと思っているに違いない。





「勘違いしないでくれ。僕はそこまでお人好しじゃない。


雅と久米は僕の生徒だが、雅は僕の恋人でもある。


人間は、窮地に立たされると立場を天秤に掛けられるんだ。



雅を取るか、久米を取るか―――



僕がどちらを取るか、君は計算できるだろう?」





真愛ちゃんが教えてくれた。久米が絵を描けなくなった理由―――


それは恐ろしいほどの真実だし、こんな取り引きを持ち出す僕は卑怯者かもしれない。


だが、このまま何もかも知らずに


ただ時の流れに身を任せている第三者では



いたくない。




愛する雅を守るためなら、僕はとことんまで堕ちてやる。