あたしはサーベルを降ろして、元にあった場所にそれをきちんと収めた。
「さすが演劇部。ハムレットを演じたことあるの?」
聞いてみると、
「前の学校でね」
「でもあんた小道具係でしょう?台詞まで覚える必要ってあるの?」
「小道具係だからと言って道具を作るだけじゃないよ。
うちは人数も少なかったし、あのときはホレイショー(ハムレットの親友)役の代役で練習してた」
「ふーん、面倒そう。いや、大変そうだ」
思わず口に出たけれど久米は気を悪くした様子を見せずに軽く笑った。
「まぁ大変だけど、何かに打ち込んでいれば気晴らしになるしね」
「気晴らししたいことがあったの?」
またもそっけなく聞くと、久米は僅かに目を伏せてうっすらと笑った。
「鬼頭さん、今日は質問ばかりだね」
あたしはその問いかけに、
「まだみんなクラスで準備してるかな」
全然別の返答を返した。
「してると思うよ?」
「じゃあさ、このままここで二人居なくなっても大丈夫だよね」
あたしが久米を見上げると久米は大きな目をちょっとだけぱちぱち。
「どうゆう意味?」
「ここで二人きりで作業するんだったらどこでも構わないでしょ?
あんたんちで、しよ」
あたしの質問に久米はまたも目をぱちぱちさせて、でもすぐに探るように顎を引いて考えるような仕草をした。
「うちに来たい?」
ちょっと勝気に笑われて
「そ」
あたしは短く答えた。
久米は喉の奥でちょっと笑って目を細める。
「何?」あたしがまたも短く返すと、
「まるで歴史を繰り返してるみたいだ。
君が以前神代先生にしたことを、今度は俺にしようとしている」



