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「ここなら大丈夫かも」
岩田さんが提案したのは、普段はあまり使われることがない第二音楽室。
授業では使われてないけど、放課後は合唱部や吹奏楽部が練習場にしている。
「ここね、鍵壊れてるんだ~。あたし合唱部の幽霊部員だから知ってンの♪」
岩田さんは得意げになって言う。
授業で使われてはいないけど、部活動で使用しているからか掃除はされていたし、思った以上にきれい。
あたしはグランドピアノの椅子に腰掛けると、ブレザーのポケットに手を入れて、同じように近くの机の端に座った岩田さんを見た。
「あたしね、岩田さんが想像する通り、神代先生と付き合ってた―――」
前置きもなしにいきなり言い出したあたしに岩田さんは目をぱちぱち。
「……あ、やっぱそうだったんだ……」
何て答えていいのか分からないように岩田さんが視線を彷徨わせる。
「ワケあって今は別れてる。そのワケってのは今は話せないんだけど―――
それで今は―――
久米と付き合ってる」
まるで業務連絡をするように淡々と告げた言葉に、今度こそ岩田さんが目を開いて身を硬直させた。
「ごめん」
それしか言えない。
謝ることしか―――
今のあたしには
できない。



