「…それはそうと、鬼頭さんさ」
岩田さんはさっきの怒り顔から一転、心配するように眉を寄せて声のトーンを落とすとあたしにそっと顔を近づけてきた。
「神代先生と別れちゃったって本当?」
岩田さんの言葉にドキリと胸が打つ。
何で―――…そのことを……?あたしたちが付き合ってたことを、岩田さんは知らない筈なのに。
目を開いて岩田さんを凝視すると、
「いや……あのね、さっきの授業でそうゆう話題になってさぁ。
発端は久米くんの一言だったんだけどね。『何で別れちゃったの?』って。
先生は誰と付き合ってたとは言ってなかったけど、それ
鬼頭さんのことかな、って思って……」
久米―――……
あたしが居ない間にそんなことを。
やってくれたわね。
歯軋りをしたいほどに怒りがふつふつと湧き出てきたけれど、あたしはそれを何とか押さえ込んだ。
ここで怒ったら、あたしが水月と付き合ってたことを認めることになる。
それだけはだめだ。
「へぇ、先生別れちゃったんだ…」
まるで他人事のように言ってあたしはひしゃげたココアの缶に口を付けた。
「…隠さなくてもいいよ。鬼頭さんも辛いだろうし……
あたし、誰にも言いふらさないし」
岩田さんは気を遣ってくれているのだろうか。
益々心配そうに眉を寄せてあたしを覗きこんできた。



