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「はい。温かいもんでも飲むといいよ、こうゆうときは」


そう言って手渡してくれたのはホットココアの缶。


昇降口の近くに設置してある自販機の前に小さな休憩スペースがある。


白い丸テーブルと椅子がセットになって置かれていて、あたしたちはそこに腰を降ろした。


乃亜や梶が居る教室には帰りづらくて、足取りが重かったあたしに気付いてここに連れてきてくれたのだ。


「ねぇ、楠さんと梶くんと喧嘩でもしたの?」


岩田さんはあたしの向かい側の席に座り、同じようにカフェオレのプルタブを引いている。


「……そう見える?」


「…………うん」


岩田さんは言い辛そうに顎を引いて目を上げた。


「まぁ、そうかも…」


隠すことでもないし、と言う意味であたしは素直に頷いた。


岩田さんは「何が原因なの?」と深くは聞いてこなかった。


それがありがたかった。


一口ココアを口に含むと、甘ったるいカカオの味が口に広がった。


この甘さに、何故かほっとする。


「なぁなぁ次の英語の課題さ~」


近くで声がして、あたしと岩田さんは顔をあげた。


「あ」


あたしたちの存在に気付いたのか、その声の主たちが思わず立ち止まる。


A組の―――名前知らないケド、根岸をパシリにしていてついでに文化祭実行委員でもある男子たちだった。


A組男子たちは無遠慮にじろじろあたしたちを見ると、にやにや笑いを漏らしながら自販機で飲み物を買っている。


今は関わりたくない。


あたしは気にしない様子で岩田さんに向き合って話題を変えた。


「今度さ、買い物行かない?気分晴れるだろうし」


そう言うと岩田さんが嬉しそうに手を合わせる。


「うん♪行こう、行こう~。ついでに駅前にできたアイス屋にも行きたいんだよね~」


そんな話をしているときだった。


A組男子たちはなにやら賑やかな会話をしながら、チラチラとこちらを見てくる気配があったけれどあたしはそれを無視。


気付かないフリをしていたら、


ガタン…


「ぅわ」


何かが落下する音が聞こえて男子の一人が声を上げた。


コロコロ…






あたしの足元に、コーヒーの缶が転がってきた。