「…あ、ああ」


保健医がちょっと驚いたように目をぱちぱちさせて、それを机に置いた。


その行動があまりに不自然で、あたしは思わず保健医を睨んだ。


「何で隠すんだよ」


「別に隠しちゃいねぇよ。ってか良く分かったなエピネリンだって」


「まぁね。特殊な医薬品だから。


エピネリンには気管支を広げる作用や心臓の機能を増強して血圧を上昇させてショック症状を改善する作用がある。


使用量は体重1kgあたり0.01mg。その大きさからすると0.3mg?」


「相変わらず嫌味な女子高生だぜ、お前はよ」


保健医は呆れたように肩をすくめて注射器を取り出した。


「いくらあたしを黙らせたいからって、使わないでよ。さっき※ミルクティー飲んだから、心臓にショック受けて死んじゃう」


(※エピネフリンはカフェインと併用すると相互に作用を増強させ、心臓に負荷をかけます。突然死の原因につながることもありますのでご注意を)


「それはいいこと聞いたな♪」


保健医はにやりと笑って注射器のシリンジを押した。キャップをつけたままの針の先がキラリと光った気がした。


バカな冗談ばっか言ってたからか、それで気分が紛れたのか、ちょっと生理痛の痛みが治まった気がした。


「ま、永遠の眠りにつきたくなかったら大人しく仮眠とれ。寝てないんだろ、昨日」


ラテックスグローブに息を吹き込み、空気を入れると保健医は手馴れた仕草でその薄いゴムの手袋を手に装着した。


よくドラマや映画で手術のシーンとかで見るあの薄いゴム手袋。


「ねぇ、何でエピネフリンを用意するの?」


あたしは興味本位で聞いてみた。


指にフィットさせるように軽くグローブの端を引っ張りながら、保健医がこちらを振り返る。






「緊急用だ。これは―――……」






保健医が言いかけたときだった。


「……先生、体育の授業ですりむいちゃって」


一人の男子生徒が入ってきて、






話は中断された。