「どうした、久米。珍しいな」
僕は何でもない様子を装って久米を見た。
久米がにやりと口の端で笑った気がして、思わず口元を引き締めると
「どうして彼女と別れちゃったんですか?」
と、質問してきた。
ざわ…
生徒たちが久米と僕を注目して、クラスがにわかにざわめきだす。
「え!先生別れたの?」
といち早く聞いてきたのは、さっき僕に文化祭のチケットをせがんできた中川だった。
「ってかやっぱり彼女いたの!?やーん!」
と今度は違う女生徒。
「でも別れたって言ったじゃん。あんた脈有りかもよ??♪」
「てか先生って彼女いたのかよ~」
「何で久米が知ってるんだ?」
様々な意見が飛び交う中、楠は僕の方を見たまま目を開いて唇を引き結び、梶田は忌々しそうに久米の方を睨んでいる。
「静かに!僕のプライベートは授業に関係ないだろう?問題に集中しなさい」
僕が注意すると、
「否定しないってことはやっぱ別れちゃったの?」とちょっと心配そうに岩田が振り返り、
「フった?フられた?」
と男子が面白そうに悪ノリしている。
問題を解いている真剣な様子から一転、生徒たちはどこか楽しそうに噂話をしていた。
「関係ないことだ。早く解きなさい」
そう注意するも、一度火のついた好奇の噂話はそう簡単に鎮火してはくれないようだ。
いつの年代になっても色恋沙汰の噂話ほど盛り上がるものはない。
まるで芸能人のゴシップネタのような盛り上がりで、授業どころじゃなくなった。



