クラスの生徒たちは大人しく問題に向かっている…が、全く静かなわけではない。


A組のような緊張感はないが、それでもぼそぼそと話す内容は問題についてのあれこれだった。


「他の人の答えを丸写しするなよ。あとで確認するからね」


ゆっくりと机と机の間を歩く。


「分からなかったら先生に聞きなさい。何でも答えるから」


いつも変わらない日常。いつもと変わらない台詞。


もちろん、口だけではない。実際、こうやって歩き回っていると何人か生徒の質問にあう。


その都度立ち止まって、生徒一人ひとりに解説していくので時間はかかるが、理解してくれる確率は高い。


実際、僕の受け持つクラスはA組担任の、同じく数学教師である石原先生の授業よりだいぶ遅れを取っている。


よくテストを作成するときにぼやかれる。


でもそれでいいんだ。受験に必要な部分は教えているつもりだし、無駄に急ぐことはない。


そんな想いでゆっくりとした歩調で机と机の間を歩いていると、




「質問」



一人の男子生徒がゆっくりと手を挙げた。


ぎくり、として僕は歩みを止める。


手を挙げたのは―――





久米だった。