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「点Qの座標を(s,t)点Pの座標を(x,y)とおくと、2つの点P,Qが動くが、軌跡の方程式を求めたいのは、点Pである。すなわち点PのX座標とy座標の“関係式”を求めれば答えとなるが―――
s=2x,t=yとなり――…」
黒板にチョークで線や円を描いて、図を説明するも
「先生…」
後ろの席で森本がおずおずと手を挙げ、そう静かでもなかったクラスメイトたちが僅かに森本に注目する。
「2が抜けてます。方程式は“s=2x,2t=y”じゃありませんか?」
森本に指摘されて僕が黒板に目を向け、目をまばたいてその図と方程式を見比べるとその方程式が間違っていることに気付いた。
森本以外誰もこの間違いに気付いていないようだった。誰一人として彼女に同意する者はいない。
「ああ…本当だ。ごめん、ありがとう」
慌てて黒板の字を書き換えると、
「どうしたんですかぁ。ぼーっとしちゃって」
と前の方で男子がからかうように笑う。
「神代先生がぼーっとしてるのは今にはじまったことじゃねぇじゃん」と隣の男子も笑っている。
僕も思わず苦笑い。
森本が指摘してくれなかったら、誤ったまま数式が進んでしまうところだった。そうなると答えが変わってくる。
「すまない。正しくはs=2x,2t=yでこれを代入してsとtを消去する必要がある」
いけない。
今は授業中だ。集中しなければ……
集中―――
チョークで数式を書き綴っていると、視線を感じた。
僅かに振り返ると、久米がじっと僕を見つめていて、
薄く冷笑を浮かべていた。



