僕はその右手を乱暴に取った。


再び久米が驚いたように目を開いたが、今度ははっきりと威嚇するような目つきで僕を睨み挙げてくる。


「君はたくみな話術と行動で、君が絵が描けなくなった理由を、この右手のせいだと僕に植えつけた。


いや、僕だけじゃない。雅や彼女たちの周りにいる全員を騙したんだ。


君の思惑通り、すっかり騙されたよ」


久米が虚をつかれたように目をしばたいて、僕を見上げてくる。


その揺らぐ視線に先ほどの余裕は感じられなかった。


思えばあの……雅が怪我をした絵画が飾ってある踊り場で、僕を挑発してきたのも、


怪我をした右手をアピールするためだったのだ。


「だけどそれは君にとって危険な賭けだ。


“そのこと”を周りに知らさないで、万が一何か起こったらどうする?


絵を描けないどころか―――




命を落とす危険性だってある」






僕が問いかけると、久米は唇を引き結んだ。


僅かにつりあがった目を一層険しくさせると僕を睨んできたが、だけどすぐに表情を緩めた。





「先生の言った通り、これは賭けだ。


命を張ったね。



まさに俺のアキレス腱だ。



で?どうするんですか?俺を鬼頭さんから引き剥がすため、先生は俺を脅す?」




脅す―――…?そんなつもりは……


久米は僕の手から乱暴に手を振りほどくと、手首を撫でさすりながら口元に淡い笑みを浮かべた。


まるで挑発するような意地悪な笑みを浮かべ、久米が僅かに腰を上げ僕の顔に顔を近づけてきた。




「鬼頭さんの周りをうろちょろする目障りな俺に消えてほしかったら、俺だけに通用する“毒”を使えばいい。


先生は……いや、誰でも簡単に手に入れられる。しかも証拠が残らない。残っても事故死扱いだ。






まさに完全犯罪」





久米は楽しそうに僕の耳元で囁く。


悪魔のような低い声を聞きながら、今度は僕が目を開く番だった。





「もっとも、最後のカードは俺が握ってるから、


殺しちゃったら何も分からないまま







鬼頭さんも守れないけどね―――





それでもいいんなら?」