「でも気をつけて。ファムファタルにはもう一つの意味があるの。
男は破滅させる悪い女ヨ。気をつけなさい」
いつになく真剣な顔で言われ、鼻先を指されて僕は思わず一歩後退した。
「カルメンやサロメなんかがいい例じゃないですかね。
いわゆる魔性の女ってことですよ。それがどうかしたんですか?」
和田先生も顎に手を置きながら頷いて聞いてきた。
「いえ……ちょっと生徒たちの話を小耳に挟んで、どう言う意味だろうかと…」
和田先生とシャーロット先生は揃って顔を見合わせ、小首をかしげた。
う゛
苦しい言い訳だな。
僕は「ありがとうございました」ともう一度礼を言い、逃げるように準備室を出た。
魔性の……―――
久米は雅が魔性の女だと言いたかったのだろうか。
魔性…
その文字を繰り返し頭の中に過ぎらせても、はっきりと否定できない僕。
何せ、
『あたしに溺れて死ね』なんてにこにこ笑顔のまま言ってたしね。まぁ冗談だけど。
―――でも久米は本気だった。
雅に将来への道を断たれたと思っているからだろうか。
彼女を庇って久米は絵が描けなくなった―――
だからだろうか。



