久米―――……彼はきっと…雅のことが好きなんだろうな―――
ぼんやりと久米の方を見たが、彼は雅とは反対側の男子と何やら楽しそうに喋っていた。
その久米が僕の視線に気付いてか、ちょっと顔を上げると意味深に口の端を吊り上げた。
まるであざ笑うかのように薄く笑い、窓の外をぼんやりと眺めている雅に目配せしている。
僕は―――もう挑発に乗らない。
僕は何でもないフリをして中川に向き直ると、
「じゃあ一枚用意してあげるよ。ただし、特別な」と念押しすると中川は「やりっ!」と小さくガッツポーズ。
「お礼も兼ねてうちの姉ちゃん紹介する~」と中川がちゃっかり言って笑っている。
僕は苦笑いで返して、
「ほら、早く戻りなさい」と彼の背中を軽く押した。
何でもない日常―――僕は演じることができただろうか。
キーンコーン…
一時限目を報せる予鈴がなる。
僕は出欠簿を抱えて、教室をあとにしようとした。
だけどちょっとだけ振り返り、さっきと同じように男子の一人と談笑している久米を見据えた。
「久米、一時限目が終わったら、数学準備室に来るように」
僕の言葉に久米どころか、雅も顔を上げてこちらを見た。
楠も、梶田も―――
そして森本も……



