森本の家―――……
「え…!何でっ!」
思わず口にして、慌てて口を噤んだが遅かった。
「あ、やっぱあれ先生だったん?声が似てるなーって思ってたけど」
と中川はにやにやと笑った。
「……何で?何で知ってる?」
僕は探るようにもう一度聞いた。
中川はまぁ梶田と仲のいい生徒で、ヤンチャな方だが根は悪い子じゃない。
……と、信じたい。
「あれ?知らなかった?俺、森本と同中だよ。俺んち、森本の家の斜向かい」
中川はにこにこ笑って自分を指差した。
そう……だっけ。
「せんせ~、いけませんよ♪姉妹の間で二股とか♪」
は!?二股!
「いや!違うからっ」
僕は慌てて首を振った。
「このことクラスにバラされたくなかったら―――」
中川はまたも声を低めて、僕に顔を近づけるとじっと見据えてきた。
バラされたくなかったら―――何……
ごくりと喉を鳴らして中川を見つめ返すと、中川は僕の肩から手を離して
バッ!
いきなり顔の前で手を合わせた。
「頼む!!このとーり!文化祭の来客チケット一枚用意して!!」
中川の出した条件てのは僕が全く予想できなかったもので、
しかも脅すにしてはあまりにも迫力の掛ける頼みごとで、
驚くよりも、呆れた。