『鬼頭』なんてホントは呼んでほしくない。
名前で呼んで欲しいのに。
そんなこと無理だし、そもそもその手を離したのはあたしからだって言うのに……
何だかすごく寂しかった。
「日付、忘れないように」
水月は先生の口調でしつこいぐらいに日付にこだわる。
「忘れませんよ」
あたしも生徒の口調に戻ってそっけなく言って日誌を引き寄せた。
「テストに答えを書き忘れて、白紙で提出してきた生徒がいたからね。
念のために」
水月の言葉にあたしは目を開いた。
水月は無理やりといった感じでぎこちなく笑うと、
「何それ~?」
とまたも女生徒からの質問が入る。
去年の数学のテストを白紙で提出した事実は
―――あたしと水月しか知らない。
誰も知らない秘密を共有してるみたいで、二人しか分からない暗号を交わしているみたいで
それだけでドキドキと心臓が高鳴った。
席に戻って、そっと日誌を開くと、感想欄に
“僕はまだ諦めないから。ずっとずっと
好きだよ”
鉛筆でその一文字が書かれていた。