生徒とのやり取りを見ていても、水月が特に激しく落ち込んだりしていないことに気付いた。
良かった―――…
『あいつは大丈夫だ』
保健医の言葉を思い出し、そうだね、って心の中で頷いた。
それでもあたしと空中で視線が合ってしまうと、戸惑ったように身を強張らせている。
あたしは、慌てて視線を逸らした。
「鬼頭」
ふいに名前を呼ばれて、
ドキリとした。
目を開いてゆっくりと水月を見ると、水月は穏やかな微笑みを浮かべて日誌を軽く掲げていた。
「今日、日直だ。隣の席の―――久米と。日誌取りに来て」
あたしは顔だけを上げて、
「今日は山田じゃないんですか」と聞いた。
「あれは冗談だ。取りに来て」
と言われて、仕方なくあたしは席を立ち上がった。
日誌を受け取るときに、
「日付だけ先に書いておいて。忘れないように」
としっかりと釘を差される。
あたしたちは
ただの先生と生徒の関係に―――戻った。
戻りたくなかったのに、
戻ってしまったんだ。



