想い出に浸るのはここまで。
あたしはケータイを開くと、
「赤外線ってどう使うの?使ったことないんだよね」
と、目を細めてケータイをいじった。
「新聞部のパソコンにウィルス送り込む程の腕を持ってて、ケータイには詳しくないの?不思議だな」
バカにした様子ではなく、久米は爽やかに笑った。
ってかそこまで知ってんのか。筒抜けだな。と呆れた。
「俺のアドレスと番号、QRコードで読み取れるよ」
と言ってスマホの画面を見せてくる。
大きな画面に映っていたのはオンラインクーポンとかでおなじみのQRコードだった。
「へぇ。便利だね。今ってこうなってんの?」
「鬼頭さん、お年寄りみたいな発言だよ」
久米の言葉を無視してQRコードを読み取ると、
“久米 冬夜 080-XXXX-XXXX”と表示が出てきた。アドレスも入っている。
「あんたって冬生まれ?」
「うん、そうだけど?
1月の寒い夜に―――生まれたから
白い雪が降ってたらしいよ……?生まれた場所は暖かい土地だったけれど、その日だけ何故か降ったんだ。
紅の椿に白い雪が綿のようにかかって―――きれいだった、って母親が言ってた。
その冬はあとにも先にもその日だけだって」
随分とロマンチックな話だった。
現実しか興味がないあたしでも、ちょっとその景色を想像しちゃうぐらい。
その景色を見て、久米を産んだ母親はきっと感動したに違いない。その美しい光景を忘れないように、
久米が生まれた日の感動を忘れないように―――
その名を久米に与えた。



