「またきっと戻るよ。
それまで俺が君の心のよりどころになるから」
久米があたしの手を再び握ってきて、僅かに目を伏せた。
長い睫が伏せられて頬に影を落としている。
その手は、いつか握ってくれた梶の手の体温と似ていることに気付いた。
でもその感触は、
いつでも力強く引っ張っててくれる梶とは違って、包み込むような優しさがあった。
「俺が梶田の代わりに傍にいる。
君が苦しいときも、辛いときも。ずっと…」
何それ…まるでプロポーズみたいじゃん。
「本当は鬼頭さんの頭を撫で撫でしてあげたいんだけどさ、さすがにここは教室だし。
みんな居るからこれが限界かな」
頭撫で撫で…って頼んでないし。
久米の言う『これが限界』ってのは、あたしの指に自分の指を絡ませてくることだった。
細くて長い、きれいな指。その指があたしの手の甲をそっとなぞり…
「やっぱりこれが限界…」
久米は恥ずかしそうに囁いて、睫の影の下の頬が僅かに赤く色づいていた。
いつか見たその嬉しいような切ないような、複雑な表情は……
―――美術バカ……?
ねぇ、あんたはやっぱり美術バカなの?
その事実も分からないし、たとえそうだとしても久米が何を考えているのか分からない。
でも
ちょっとだけ救われた。あたしは本当に独りじゃない。
そんな風に思えた。



