ファム・ファタル―――……?
あたしが目を開くと、
『あんたは“ファム・フラジル”かよわくて繊細で、なぁんにも出来ないお姫様。
あんたに水月先生はふさわしくない。彼はあたしのものよ』
割れた鏡の破片の中であたしが顔をゆがめて失笑を浮かべる。
だけどその笑いをすぐに拭い去って、真顔に戻ると、
『厄介なやつがきた。あたし、あいつ嫌いなのよね』
“あいつ”―――…?
目をまばたいていると、
「鬼頭!!」
鏡に手をついて覗き込んでいたあたしは後ろから肩を引き寄せられ、保健医の胸に抱かれた。
「お前っ!何やってんだよ!!」
慌てたように手を掴まれ、そこから出血していることが分かった。
鏡に打ち付けた手の側面から、ガラスで切ったであろう場所から血が流れている。
ってかここバスルーム。
あたし裸なんですけど……
と言いたかったのに、言葉は出ない。
保健医は顔を青くして脱衣所に戻り、大きなタオルを持ってきて乱暴にあたしの頭からタオルを被せる。
「声が聞こえたから、誰か居るのかと思ったが。……お前何やってんだよ」
保健医はもう一枚のバスタオルであたしの手を押さえると、傷の部分を圧迫するように力を込めた。



