■Chairs.11



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どれぐらい時間が経っただろう。


ただ無言で降りしきる雨の景色をぼんやりと眺めて、すぐ隣に居る久米はあたしに付き合って手を重ねたままあたしと同じように前を向いている。


聞きたいことはたくさんあるのに、今は話したくない。


ただ無言のこの時間が心地良い。


さらさら、しとしと…


雨の音に混じって背後から靴音が響いてきた。


コンクリートの床を打ち付ける革靴の音。


その音から歩幅が大きいこと、そしてその歩みが力強いことが分かった。


雨の匂いに混じって香ってくる、爽やかで……でもどこかエキゾチックな大人の男の香り……


その足音はあたしたちのすぐ後ろまで近づくと、その人物が屈み込む気配があり、無言であたしの手を取った。


久米が重ねていた手はその人物の手によって引き剥がされ、乱暴とも言える仕草でちょっと持ち上げられる。







「前のオトコをフってすぐ新しいオトコ?お前ってそんなに器用だっけ?」







わざとふざけた口調で“保健医”が言って、呆れたようにあたしを見下ろしていた。