「それとも何?あんた先生の彼女気取り?


こないだちょっと助手席に乗ったからっていい気になってんじゃない?」


結ちゃんが腕を組んで顎の先をちょっと上に逸らす。


「……なんでそのこと知ってんの…?」


今度は森本がたじろいで、顔をカッと赤くすると不安そうに僕を見てきた。


いや、僕は言ってない。と言う意味で慌てて手を振る。


「こないだ偶然見ちゃったの。あんたがコインパーキングに停めた先生の車から、先生と一緒に出てくるのを。


先生からは何も聞いてない」


こないだ……?ああ、数日前に森本の家に訪問したときだった。


あのとき妹の森本も「家に帰りたくない」と言って泣いていた。興奮していた彼女を、今日みたいに送ってきたのだ。


「森本、落ち着きなさい。僕たちは森本が疑うような関係じゃないから」


慌てて説明するも、


「先生、この子に何言ったって無駄だよ。こうなったらしばらくは手をつけられないの」


と結ちゃんが冷静に返してくる。表情が抜け落ちた顔で僕を僅かに振り返り、


「あたしは大丈夫。慣れてるから」


とそっけなく言って家に入って行った。


「ちょっと!!」


森本が忌々しそうに唇を噛み、それでも慌てて僕にぺこりと頭を下げると、


「先生すみません。今日はこれで。おやすみなさい」と結ちゃんの後を追いかけるように慌てて家の中に入っていった。


彼女たちが入っていた後、扉はパタンと閉まり、


その後も僕はその重圧的な扉をじっと凝視していた。




一体―――彼女たちの関係を取り巻いているあの、異質とも呼べる雰囲気は



何が原因なんだろう。




姉である結ちゃんの彼氏を、妹の森本が奪ったから、と言う簡単過ぎる図には



到底見えなかった。