警察署の玄関を出ると、くすんだ灰色の階段に久米がポケットに手を突っ込みながら後ろを向いて座り込んでいた。


屋根があるから雨に濡れることはないけど、下の方の階段は風で降りこんだ雨で灰色が黒い色に染まっていた。


あたしが一歩踏み出ると、強まる雨音で足音はかき消されていた筈なのに、久米が僅かに振り返った。


「あたしだって良く分かったね」


あたしも同じようにブレザーのポケットに手を突っ込み、久米の横に座ると、


「“毒”の香りがしたから」


と久米が苦笑を浮かべる。


ああ、それで…


「雨の匂いに混じって、鬼頭さんの香りが漂ってきて…」


「文学的なこと言うじゃない。情緒的って言った方がいい?あんた詩人になれば」


そっけなく言ってぼんやりとくすむ向こう側の景色を眺める。


久米はあたしの軽口に何も答えなかった。ただあたしと同じようにぼんやりと遠くを眺めている。


「右門 篤史は?」


「帰したよ。今警察に厄介になるのは立場的にマズいんだ」


久米はリズムの感じられない淡々とした口調で答えた。


「ふぅん」


「「……」」


沈黙が降りて、強まる雨音の中あたしたちはただ無言で前を向いていた。


互いに視線を交わすことはない。





冷たい景色を―――ずっと……



二人して眺めていた。