あたしは水月の首に這わせた手を下ろした。
水月は急に力が抜けたように、がくりと床に膝を付いた。それでも目を開いたまま首元を守るように両手で押さえている。
あたしは落ち癖なんてつけたことないから水月の苦悩は分からない。
だけどきっと彼にとって、それは“死”の気配をもたらすもの。
誰だって死ぬのは怖い。
「あたしは―――こんな簡単なことで先生を黙らせることができる。
あたしを見くびらないで。
あたしの方が強いの。
先生に守ってもらわなくても大丈夫なの」
冷たくそう言って水月を見下ろすと、彼は焦点の定まらない視線であたしをぼんやりと見上げた。
「優しさの押し売りはやめてよね。
そうゆうの迷惑だから」
あたしは水月だけでなく、梶や保健医も順に見上げて、彼らにゆっくりと背を向けた。
「さよなら、先生。楽しかったよ」
歩きながら、
あたしちゃんと“お別れ”を言えたかな。
あたしちゃんと“酷い女”を演じれたかな―――…
それだけが気になって何度も振り返えりそうになった。
だけど前を向いて歩かなきゃいけない。
彼らを守るために。
ストーカー犯人に立ち向かうために。
そう決めた。



