あたしは頬を包む水月の手をやんわりとはがして、て押し返した。
「雅……?」
水月が不安そうに顔を上げて、あたしはその顔を無表情に見下ろしながら立ち上がった。
「“鬼頭”でしょ。
“先生”―――」
あたしの言葉に水月が表情を止めた。
まるでそこだけ時間が止まっているように。
あたしの視界が滲んで、その止まった時間がダリの時計のようにねじれていくようだった。
でも泣いたらだめ。
あたしは今、白雪姫―――を演じる、“女優”―――
久米の描いたストーリーのように、とことん冷徹で我侭で計算高くて、
強い。
彼女に涙なんて似合わない。
愛した男を意図も簡単に捨てられる血も涙もない女―――
「鬼頭……?」
梶があたしの様子に不審そうに見上げてきて、あたしはその視線にも無表情に返した。
「今回の件はご迷惑をお掛けしました」
事務的に言って水月に頭を下げる。
「…いや、いいけど…み…」
水月が言いかけてあたしは遮るように畳み掛けた。
「今回の事故で思ったの。あたしはやっぱり“先生”の“生徒”でしかないんだな、って」



