久米―――…


あたしは久米から目を逸らさずに見据えていると、久米はちょっとだけ苦笑いを漏らして再び背を向けて歩き出した。


「10:0は…」

「対物に…」


保険屋と水月の会話をぼんやりと聞きながら、あたしはすぐ近くにある窓に目を向けた。




しとしとしと…


いつの間にか雨が降り出していたようだ。


小雨が窓を打つ音に混じって、水月の声がする。


話しの内容はもっぱら事故処理の保険金支払いの確認のようで、どうしてそうなったかのいきさつはあまり語られていない。


それは乾いた地面に持たされた水滴のように、あたしの心に心地良く浸透していった。




水は―――愛する人の名前の一部で、


その一滴はやがて、


大切な友の、大切な人の名前をも意味する大海になる。




母なる海が存在するあたしの世界には―――守りたい人がたくさん居ます。





サー…と漣のように降り注ぐ雨音を聞きながら、




『失うわけにはいかない』




改めて決意した。





「うちの生徒がご迷惑をお掛けして申し訳ございません。私の指導不足でして」


水月が謝ることなんてないのに。


悪いのは―――あたし……


ごめんね






ごめんなさい、水月。




あたしを許して。