「あの…事故の相手は…」


水月が聞くと、


「保険屋と部屋の外にいます。どうぞ」と今度は交通安全課の警察官が水月を促して、(どうやら担当があるみたい)あたしたちは促されるまま部屋を出た。


途中水月が少し心配するかのように振り返っても、あたしは彼と目を合わせることなく視線を逸らした。


一緒についてきた保健医が訝しそうに目を細めていたけれど、あたしは俯いたまま梶の後ろに隠れるようにしてついていった。


水月はあたしたちを近くの椅子に座らせ、事故を起こしたドライバーとは反対に妙に堂々とした上から目線の保険屋と話をしている。


保険屋と水月、それから保健医が事故処理の“大人の会話”をしているのをぼんやりと眺めていると、途中で久米が席を立った。


「…おい、どこ行くんだよ」


梶が久米を睨むように呼び止め、


「帰る。もう俺がここに居なきゃいけない理由なんてないし」


久米がそっけなく言って、ズボンのポケットに手を突っ込み歩き出した。


「な、何だよ、あいつ!」


梶はいきりたっていたけれど、あたしは何故か―――久米がわざと……意図的に冷たい雰囲気を装っている気がした。


久米はどうしてあたしたちがあの場所に居たのか、自分たちがハメられたことを知ったに違いなかったが、それについて問いただすことはしてこなかった。



久米は―――きっと早い段階で気付いたんだろう。



そして右門 篤史を帰らせた。



相変わらず頭の回転が速いヤツ。




久米は―――知ってる。




あたしがどう“決断”をしたのか。




久米の華奢な背中を見つめていると、


久米がその視線に気付いたのか、僅かに顔を振り向かせた。


目が合って、久米が歩調を緩めると、





「まっ・て・る」





口がそう言う動きをした。