「…久米…」
焦点の合わない顔でぼんやりと久米を見上げると、
「大丈夫!」と勢い込んであたしの両肩を掴んだ。
さっきまですぐ近くに居たであろう右門 篤史の姿はない。
そしてあたしたちが追いかけていた“犯人”の姿も―――当然なかった。
どこへ行ったのか気になったけれど、それを確かめる余裕もなかった。
「……うん。大丈夫」
そう答えるのが精一杯。
遠くで救急車やパトカーのサイレンの音が聞こえる。
通行人の誰かが通報したようだ。
一瞬だけ―――もうだめかと思った。
だけどあたしは生きてる。
梶も生きてる。
膝に受けた擦り傷の痛みもリアルに感じる。生暖かい血液の感触もリアルだ。
―――生きてるんだ。



