■Chairs.9



◇◇◇◇◇◇◇◇





―――闇が押し寄せてくる。


まるで光を塗りつぶすように、あたしを飲み込むように―――






しばらくの間、周りの音も聞こえなかった。


ただ人々の叫び声や足音が耳奥で響いているだけ。


近いのか遠いのかも分からない。





「―――さん!


鬼頭さん!!」





誰かがあたしを呼び―――でもその声が誰なのか少しの間、認識すらできなかった。


「通して!すみません通してください!!」


聞き覚えのある声。


いつものように少し低めの落ち着いた話し口調じゃない。その声は酷く緊迫していて、余裕がなかった。




「鬼頭さん!」





もう一度名前を呼ばれて、あたしはゆっくりと目を開いた。




久米―――……?