真愛ちゃんは、はにかみながら笑った。


「スケッチブック見せてくれてありがとう」


そう言って僕は彼女にスケッチブックを返した。


彼女が受け取り、僕が手を離そうと思ったが―――思いとどまった。




「久米は―――そのスケッチブックを忘れていったんじゃない。



敢えて置いて行ったんだ。





過去に抱いた気持ちを、置き去りにするように―――」






真愛ちゃんが目を上げる。僅かに眉を寄せ、その下にある二つの瞳が切なげに揺れた。


久米が描いたスケッチ画、雅の姿はどれもとても穏やかだった。


きっと久米に心を許していたのだと思う。


久米も雅に心を開き―――互いのそれが“恋”と言う感情でないにしても、何かで通じ合っていたと思う。


そのときの気持ちを―――久米は封印することで、冷徹になれたのかもしれない。或いはそう振舞っているのかもしれない。


僕がそのスケッチブックを手放そうとしたとき、真愛ちゃんの手が僕の手を掴んだ。


驚いて彼女を見下ろすと、





「冬夜兄ちゃんに渡してください。


捨てることもできない感情を忘れたことにして、置き去りにするなんてズルイ。



ちゃんとこの人に向き合って、ちゃんと自分の気持ちに向き合って、て



伝えてください」





真愛ちゃんは真剣な顔で僕を見上げると、僕の手にしっかりとスケッチブックを握らせた。




真愛ちゃん―――



名前の通り、君は真実の愛が何たるかを知っているのだろう。



純粋で無垢で、ただひたすらまっすぐで強い少女―――




久米






いい従兄妹を持ったものだ